ポール・オースター『ムーン・パレス』
読んだ。忘れないようにメモをしておこう。
オースターはやっぱり小説がうまい。
三つの物語が語られる。
MSの話、エフィングの話、バーバーの話。
小説をよく読む人間にとって、バーバーの物語は、『ムーン・パレス』の行く末を暗示するもののように思える。
だからバーバーがMSを殺し、その報いを受けて死ぬ、という筋を、終盤で想像するだろう。
しかし、そうはならない。
この小説は徹頭徹尾偶然で駆動する。
〈この小説ではすべてが偶然によって起きるのだ〉とMSはバーバーが書いた小説を読んで思う。
偶然だけでできた小説は、やっぱりちょっと不味い。そんなのどうとでもできるからである。
しかし、エフィングとバーバーの物語を入れ子にすることにより、この物語はそれに沿うようにして進んでいくのだ(実際にも半分くらい正しい)、ということが、読者にとっての必然性を生み出している。それはメタ必然というものかもしれない。
オチはよくわからん。
小道具として月がいくつか出てくる。シラノ・ド・ベルジュラック然り、テスラ然り。
もしかしてシラノの戯曲もなぞっているかもしれない。照らし合わせる気力はない。